選曲から演奏までの道のり2010/06/09 11:41

こんにちは!エレクトーンの神田将です。
ある曲をエレクトーンで演奏する場合、決まって踏まなければならない幾つかの段階がありますが、今日はそのプロセスをご紹介します。

オーケストラならスコアやパート譜が、ピアノやバイオリンならそれ用の楽譜が市販されており、クラシック音楽の場合はその市販楽譜を頼りに稽古すれば、大抵の演奏会には備えることができます。

ところが、エレクトーンには、こうした市販楽譜はほとんどありません。一部あるにはあるのですが、レスナーさん向けに簡略化されていたりするので、私たちプロフェッショナルがコンサートピースとして使用するには向いていないのです。

では、どうのようにして準備を進めるかというと・・・
まず、選んだ曲のフルスコアを用意し、これをじっくり読んで丁寧に解釈します。作品について熟知しなければ、ひとりで演奏するための編曲で大失敗をしかねませんので、この段階は非常に重要です。たとえば、「なぜこの旋律になぜオーボエを選んだのか」「なぜここは嬰ヘ長調でなければならないか」など、作曲家の意図をできる限り読み取りながら、それらの「なぜ」のすべてに優先順位をつけます。

こうして解釈が済んだら、エレクトーンで演奏可能な形に編曲していきます。ここで心掛けるのは、「編曲によって原曲の意図するところが崩れるのなら、その曲の演奏は諦める」という潔さ。エレクトーンには上下、足と3段の鍵盤がありますが、同時に押さえられる音の数にも、それぞれに独立して追えるフレーズにも限界があって、無理をするとただのアクロバットになり音楽ではなくなります。たとえば、ラベルの「ダフニスとクロエ」はひとりで弾けても、「クープランの墓」は弾けません。前者の方がスコア的には複雑ですが、後者の方がフレーズの独立性が高いために、独奏には不向きなのです。

原曲の持ち味を余すことなく伝えつつ、独奏する上で十分に合理的な状態に取捨選択する。これが編曲作業です。

編曲を終えたら、今度は演奏に使用する音色の組み合わせデータを作成します。
エレクトーンでは、多くの楽器の音を重ねて色彩感あふれる音楽を奏でられますが、次々に音色を変化させるために、音色セッティングの状態をあらかじめ記憶させておきます。「ここからホルンに変更」とか「2拍目からティンパニが加わる」など、スコアに忠実に音色を組み合わせ、実際の演奏時にはそのセット状態を次々に呼び出しながら、音色を変えて演奏します。

ここまで出来上がって、やっと演奏の稽古に入ることができます。なかなか煩雑で面倒な作業が続きますが、それだけにひとつの作品により深く触れることができるのです。

今年の「せんくら」には35曲を演奏しますが、まだ半分はこれから着手するという段階ですので、のんびりしてはいられません。
慌てず、一曲一曲にじっくり向き合って、秋には「大吟醸のような響き」をお届けしたいと思います。